なぜ私たちは「発達障害は治る」と信じ、民間療法を受けるのか。

ADHD(注意欠如多動性障害)の池田ラスカル@rasukarurun です。

発達障害がブームのように広がる中で、「民間療法」「代替療法」とよばれる治療を信じ、奔走する人たちがいます。多いのが食事系。「発達障害は亜鉛や鉄分で治る」や「乳製品と小麦粉を摂らないCFGF療法」など様々です。スピリチュアル系だと、波動エネルギーで治すヒーリング療法があります。

一方で「発達障害は治らない」「認可されている薬以外効果がない」と主張する人もいて、最近では両者が対立している様子がネット上で目立ちます。

なぜ治ると信じ民間療法に走るのか。「治った」は嘘なのか。本当に治らないのか。今回の記事で掘り下げていきたいと思います。

「治したい」気持ちが引き起こす確証バイアス

発達障害を持つ大多数の人は、治したいと思っています。障害があることで、仕事・日常生活・人間関係など多くの不自由が生じているからです。発達障害を持つ親の場合も同じです。

障害があっても不自由を感じていない人(適応)・障害を受け入れている人(受容)もいます。しかし、そこに行き付くまでの過程で一度は「治す方法」を模索した経験があるのではないでしょうか?

人間には「確証バイアス」というものが存在します。

“人間は自分の考えが正しいか否かを検証する際に、自分の考えを証明する証拠ばかりを探してしまい、反証情報に注目しない傾向が強い。これを確証バイアスと呼ぶ。ある情報が入ってきた場合、その情報と合致する事例が見つかることによって、その情報は正しいと証明されたような気持ちになりやすい。

引用:“確証バイアス”. 科学事典. (参照 2019-05-03).

このバイアスを「治したい人」にあてはめてみます。

  1. 「治るかもしれない」「治って欲しい」と思う
  2. 治る可能性をネットや本で調べる
  3. 自分の考えを肯定する情報(=治る情報)ばかり強く認識してしまう
  4. 自分にとって望ましくない情報を無視してしまう
  5. 「発達障害は〇〇で治る」と確信する
確証バイアスが強くかかりすぎると、客観的に判断することが難しくなります。

パワーワード「科学」―検証できなくても信頼してしまう。

怪しそうな健康法でも、「科学的に効果が証明されています。」と説明されたら、信用してしまいませんか?

「科学」の根拠として難しそうな論文のデーターを見せられたとします。例え専門用語を知らなくても、英語が読めなくても、グラフの読み方が分からなくても、数値の意味が理解できなくても、何となく信頼してしまいます。

説明してくる相手が専門家を自称していたり、肩書きを持っていたり、白衣を着ていたり、本を出版していたら、なおさら信ぴょう性が高まります。

しかし私たちには「その科学が本物か」検証できる知識はありません。「ニセ科学」「擬似科学」に騙されてしまう人が多いのも、そのためです。

参考書籍架神 恭介, 辰巳 一世 . 完全教祖マニュアル (ちくま新書). 2009, p.120-126.

 

なぜ医師による標準治療ではなく「民間療法」「自然療法」を受けるのか

ADHDの場合、日本では3種類の薬1)コンサータ(メチルフェニデート). ストラテラ(アトモキセチン) .インチュニブ(グアンファシン) が認可されています(2019年5月現在)。「なぜ病院で標準治療を受けないのか?」と疑問に思う人もいるでしょう。いくつかのパターンに分けられると感じます。

1.治療を受けたけど良くならなかった

 

薬を飲んだけど効果を感じられなかった、多少効果があったけど不十分だった、などの理由で治療を止めてしまう人もいるでしょう。薬物治療は続けているものの「これ以上良くならない」と感じ、民間療法を併用する人もいます。

また、強い副作用で薬物療法を中断せざるを得なかった人もいます。

私も副作用に苦しんだ一人です。

ストラテラカプセルでは口渇と強い吐き気があり、80mg以上の増量を断念。効果を実感できずに転院し、コンサータ錠を飲み始めました。しかし、今度は更にひどい副作用におそわれました。動悸・吐き気・薬が切れた後の倦怠感…。※この体験は当ブログの【ADHD薬物療法体験談】でまとめているので、興味のある方はご覧ください。

通常なら、すぐに薬を減薬していたと思います。しかし元看護師の私は「ADHDを良くしてくれるのは薬だけだ。」「薬を飲むしかない。」「西洋医学が正義」と確信しており、我慢して飲み続けました。これも一種の確証バイアスだったのでしょう。現在は減薬しています。

日本はアメリカほどADHD治療薬の選択肢が多くありません。一度は薬物療法を試したものの、挫折してしまった人たちにとっては、民間療法は残された”希望”なのです。

2.医師や薬に対する不信感

医師に絶対的な信頼を置いている人もいれば、強い不信感を持ってる人もいます。過去に医師の治療を受けて嫌な目にあったり、治療で良くならずに「裏切られた」と感じたり。それぞれ色々な体験をしています。

また、「薬は有害である」と信じている人もいます。

ADHDについてネットで調べていると「コンサータは覚せい剤と同じ」だとか「副作用で食欲が低下するので子供の成長に良くない」という意見を目にする人もいるでしょう。ここでも確証バイアスが生じます。

民間療法を推奨している人の中には、同時に西洋医学を強く否定している人もいます。これも、薬に強い不信感を抱いてしまう原因のひとつです。

「治りました」「治った人がいる」は嘘なのか?

発達障害には自閉症スペクトラム障害、注意欠如・多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)などがあります。厚生労働省は「生まれつき脳の一部の機能に障害がある」と解説しており、治療や療育も「完治」をゴールとしていません。

しかし、民間療法を推奨している人の多くが「実際に治った人がいる」と主張しています。これは、嘘とは言い切れません。

発達障害は改善される

発達障害は先天的な障害ですが、不変化的な障害ではありません。

発達障害は、数値や画像診断で明確に診断できません。ICD-112)世界保健機関(WHO)による国際疾病分類の第11回改訂版でも「症状が社会生活に支障をきたしている」ことが重要な診断基準のひとつです。「社会生活への支障」は、成長や環境の変化によって改善されることがあります。

“発達障害は「先天的なハンディキャップなので、ずっと発達しない」のではなく、発達のしかたに生まれつき凸凹がある障害です。人間は、時代背景、その国の文化、社会状況、家庭環境、教育など、多様な外的要因に影響を受けながら、一生かけて発達していく生物であり、発達障害の人も同様であると考えていいでしょう。つまり、成長とともに改善されていく課題もあり、必ずしも不変的なハンディキャップとは言い切れないのです

もちろん個人差はありますが、「障害だから治らない」という先入観は、成長の可能性を狭めてしまいます。”

 

引用:“発達障害の理解のために”. 厚生労働省. (参照 2019-05-03).

「発達障害が良くなった。」という現象は十分に起こるのです。


「民間療法で発達障害が治った」という現象の理由

以上をふまえて「民間療法で発達障害が治った」という現象の理由を、自分なりに分析しました。

1.民間療法のおかげじゃなくても「民間療法で治った」と思い込むケース

上記で説明したように発達障害は「成長や環境の変化によって改善される」ことがあります。しかし、熱心に民間療法を行っていた場合、「良くなったのは民間療法のおかげだ」と確信するでしょう。そもそも民間療法を受けなくても改善されていたものを、民間療法によって治ると思い込んでいるケースです。

そもそも、何が原因で治ったかなんてはっきり分かりませんよね。

2.本当にその民間療法に効果があったケース

「民間療法には効果がない。」と断言しません。実は私も民間療法や健康法を行っています。

現在行っているのは「DHA・イチョウ葉サプリメントの内服」「音読・Nバック課題アプリなどの脳トレ」「筋トレ」です。過去にはもっと試していましたが、今はこの3つ。
【関連記事】ADHD改善のために「音読」を習慣にすると決めた|ラスカルのADHDライフハック

少なくとも1年以上続けていますが、完治はしてません。しかし「良くなった」「効いてる気がする」という実感はあります。思い込みかもしれません。薬物療法も併用していますが、色々同時にやっているので、どれがどのくらい効いてるかも分かりません。

私は「薬以外によって発達障害を改善する」ことは可能だと信じています。

3.「十分改善された」状態を「完治」と表現しているケース

発達障害が改善されたことで、社会生活にほとんど支障がなくなることがあります。元々症状が軽度の人や、グレーゾーンの人には十分考えられます。

「症状が社会生活に支障をきたしている」ことが重要な診断基準のひとつなので、社会生活に支障がなくなれば「障害」ではなくなります。

この状態を「完治」と表現している人が多いのではないでしょうか。

4.そもそも発達障害じゃなかったケース


発達障害の診断基準は存在しますが、100%正確に診断することは不可能です。発達障害に似た症状が現れる病気が存在するからです。

例えば、うつ病になると記憶力が低下したり、ミスが増えたりします。一時的な症状だけ見ると、発達障害と見分けるのが難しいこともあります。また、医師の診断を受けず、自己診断をしている人もいるのではないでしょうか。

食事療法で治った場合は、以下のようなケースも考えられます。

貧血になる

血液の酸素が不足し、脳の活動が低下する

ボーっとする、ミスが増える、落ち着きが無くなる

発達障害だと思い込み「発達障害の食事療法」を受ける

鉄分を摂取する

貧血が治って症状が改善する

発達障害が治ったと思い込む

5.「治る」と嘘をついてお金を稼ごうとしているケース

「この健康法は効果があるので普及させたい。」と信念を持ち、誠心誠意活動している人が沢山います。

その反面、「治ります!」「治りました!」と嘘をついてお金を稼いでいる人も少なからず存在します。このような発達障害ビジネスは、今後増加していく可能性があります。

過去の反省ですが、私も手を出したくなったことがあります。日雇いのアルバイト生活で、あまりにお金がなかった3年前。「発達障害×青汁アフィリエイト」を思い付きました。もちろん一瞬の気の迷いであり、実行しませんでした。

 

信仰心が精神の安定につながることもある

「民間療法は宗教に似ている」という意見もあります。しかし、宗教や信仰心を持つこと自体は悪ではありません。

看護学生時代に「障害受容の過程」について講義を受けたことがあります。人間は障害を受容するまでの過程で、一度は回復への期待をします。

「治る」という期待は、あまりに辛くて受け入れられない障害から、精神を守ってくれます。そして、信仰心が精神の安定につながっている人もいます。

障害の症状で社会生活がうまくいかない、信頼できる家族や友人もいない、社会でも居場所がない、そんな人もいます。私にとっての民間療法(脳トレ等)は、生きていけないほど絶望した時に見つけた「希望」です。

「信仰心は病気を治す」研究

アメリカのマサチューセッツ州にあるマクリーン病院の研究によると、信仰心は精神的安定をもたらすだけでなく、病を治すこともあります。

1年間の治療プラグラムの始めに、患者たちはまず「信仰の度合い」と「治療への期待度」を5段階で自己評価。そして開始と終了時に、医師たちが「ウツの度合い」「幸福度」そして「自傷傾向の度合い」を評価。いずれも特定の宗教や宗派は問いません。

その結果、まったく信じていないか、信仰心の極めて薄い患者たちは、信仰心の厚い患者に比べ、治療の効果がおよそ2倍も低かったそうです。また宗教に参加していない患者でも、神や ”大いなる力” の存在を個人的に信じていれば、約30%が信心深い患者と同等の治療効果だったといいます。
同病院の臨床医でハーヴァード医科大学の精神医学講師、デヴィッド・ロスマリン氏によれば、「 ”信じること” は、精神的幸福を高めるだけでなく、ウツや自傷傾向を抑えることと関係がある」とのこと。

 

引用:Pouch. “信じる者は救われる!? ウツ病治療の効果は“信仰心が左右” するという研究結果が発表される”. Locket News24. 2013-05-23. rocketnews24.com, (参照 2019-05-24).

また、書籍“「病は気から」を科学する ” では、科学的根拠の乏しい民間療法やスピリチュアルでも、信仰心を持つこと自体に治療効果があることを検証しています。

スピリチュアルブーム、自然志向で「現代医学VS.自然療法」という対立が生まれた。
「代替療法はまったく根拠のないエセ科学だ」と断じ、切り捨てる科学者。
「心の力ですべての病は直る」と極論を述べるヒーラーや、スピリチュアルをお金に変える商売人。

真実は、両者のはざまに存在した。
「心の力」を治療に取り入れている最先端科学の研究者と医療現場、患者に、綿密な取材を敢行。
がん、自己免疫系疾患、過敏性腸症候群、うつ、パーキンソン病、自閉症、慢性疲労症候群などの病気に、心がどのような役割を果たしているかを解き明かす。

 

引用:“「病は気から」を科学する ”. Amazon商品紹介. (参照 2019-05-24).

とても興味深い本なので、おすすめです。

まとめ―「治したい」人を批判するのはやめよう

私が主張したかったこと。それは、「『治る』と信じ、民間療法・自然療法に励む人を、安易に批判するのはやめましょう。」ということです。

明らかに科学的に怪しい健康法でも、その信仰心自体が精神の安定につながってることがあるからです。そして価値観を一方的に否定されるのは、とても辛いことだからです。

それでも、自分の大切な友人や家族が民間療法にのめり込み、時間やお金をつぎ込んでいると、心配になる人もいるでしょう。相手の行動を頭ごなしに否定せず、共感を示しながら説得してあげて下さい。

例外:民間療法を止めさせた方が良い場合

例外として「民間療法・自然療法を止めたほうが良い場合」があります。それは、その健康法が明らかに健康を害している場合です。

例えば、「亜鉛」は人間の体に必要な栄養素ですが、過剰摂取をすると「亜鉛中毒」になります。大人と子供では上限量も異なります。亜鉛サプリメントの用法では大抵「乳幼児や幼児の使用は避けてください」と書かれています。

当事者が自分の意志でやるならともかく、親の意思で子どもに生命の危険を及ぼしている場合は、止めた方が良いでしょう。

参考書籍・リンク

References   [ + ]

1. コンサータ(メチルフェニデート). ストラテラ(アトモキセチン) .インチュニブ(グアンファシン)
2. 世界保健機関(WHO)による国際疾病分類の第11回改訂版